第8回 カバーメイク(4)

第8回 カバーメイク(4)
目次:カバーメイク

1 カバーメイクとは
2 歴史(「カバーマーク」誕生から日本導入まで)
3 カバーメイクの功罪
4 カバーメイクの目的
5 今、日本では(日本の現状)

※1および2はメルマガ83号に掲載しています。
※3はメルマガ84号(前半)、86号(後半)に掲載しています。

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前回は、カバーメイクの問題点(デメリット)について書きました。多少強調
しすぎだったかもしれませんが、それには理由があります。
カバーメイクを紹介している本やサイトを見ると、カバーメイクのメリットば
かりが書かれていて、デメリットについてはほとんど触れていないからです。ま
あ、それも仕方がないこととは思いますが、それって、やっぱりフェアじゃない。
だって、メリットもデメリットもわかった上でなければ利用者は選択できません
から。
なので、前回はかなり思い切ってデメリットについて書きました。
とは言っても、それはけっしてカバーメイクが“悪いモノ”というわけではあ
りませんから、その点、誤解なきよう。

さて、今回は、カバーメイクの目的について書いてみました。
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4 カバーメイクの目的
カバーメイクとは、アザやキズをファンデーションでカバーして、目立たなく
するメイクのことです。
では、どの程度カバーすれば良いのでしょうか。持てる技術を総動員して、
しっかりカバーすれば良いのでしょうか。それとも、多少、症状が見えてしまっ
ても、なるべく自然に見えるようにカバーすれば良いのでしょうか。

答えは、「本人次第」です。

カバーメイクも普通のメイクと同じ。自分の顔に自分でメイクする場合だけで
はなく、メイク技術者によるメイクサービスであっても、それは、本人の意向が
最優先です。サービス産業である以上、出来る限り顧客のニーズに応えるべきで、
しっかりカバーするのか、自然に見えるようにカバーするのかは、顧客である当
事者本人がどのようなカバーメイクを望んでいるのかで変わってきます。

従って、カバーメイクの目的は、「ニーズにあったカバーをする」ということ
です。

カバーメイクだと想像しにくいかもしれませんが、たとえば、ばっさりショー
トにしたいのに、美容師に「あなたはロングのウェーブヘアが似合うから、そう
しなさい」と勝手に決めつけられたとしたら、どうですか。そんな店、二度と行
きませんよね。
●自分の顔を受け入れるため

また、中には、「カバーメイクは、アザやキズを隠すためではなく、自分の顔
を受け入れるためのメイクだ」と言う人もいます。自分の顔の気になる部分をカ
バーすることで精神的に楽になり、さらに、目元や眉毛など(症状がある部分と
は別の部分)を整えることで症状から気をそらすことができる。その結果、徐々
に自分の顔を受け入れられるようになるというのです。

言いたいことはわかりますし、そういう効果があることも事実でしょう。しか
し、それは「結果的にそうなった」というだけで、はじめからそれを目的とする
のはどうでしょうか。

失礼を承知で言っちゃいますが、それは「大きなお世話」です。カバーメイク
をした結果、自分の顔が受け入れられたとしても、受け入れられなかったとして
も、それは本人の問題だからです。少なくとも、私はそう考えます。

また美容院をネタにして申し訳ないのですが、就職試験を受けるためだったり、
好きな人に告白するために髪を切りに行ったところで、就職できるかどうか、恋
が成就するかどうかはあくまでも本人次第です。美容師の目的ではありません。

では、なぜカバーメイクではこんなふうに考えてしまうのでしょうか。そこに
はやはり、「かわいそうな人をメイクで助けてあげる」という発想があるからで
す。あたかも強者が弱者を見守るかのように、「自分の顔を受け入れられるよう
にしてあげたい」と。でも、私はそれは間違っていると思います。
カバーメイクには、たしかに普通のメイクサービスにはない効果があります。
(詳しくは、メルマガ84号に掲載した「3 カバーメイクの功罪・効果(メリッ
ト)編」をご参照下さい。)だからと言って、メイクする側とメイクを受ける側
とが対等であることに違いはありません。メイクサービスの提供に対して、対価
(金銭だったり、感謝の気持ちだったり)を支払う。実にシンプルな関係です。
そこには「かわいそうな人をメイクで助けてあげる」という概念は必要ないの
です。
●必要なこと

カバーメイクの目的は顧客のニーズに応じたメイクをすることです。では、そ
の目的を達成するためには、何が必要でしょうか。

まず、当たり前ですが、カバーメイクの技術は絶対に必要です。

さらに、「顧客のニーズを引き出す能力」も必要です。カバーメイクサービス
において、このニーズを引き出す能力は、普通のメイクサービスよりも重要にな
ります。
なぜなら、「モデル」がないからです。
またまた美容院を引き合いに出しますが、美容院ならたいていヘアカタログが
あります。どんな髪型にするか決めていなくても、ヘアカタログを見ながら美容
師と相談することもできます。
でも、カバーメイクの場合、そう簡単にはいきません。様々な症状があり、パ
ターン化しずらいとか、情報があまりオープンになっていないということもあっ
て、「自分の症状はどの程度カバー可能なのか」「カバーは簡単にできるのか」
などがよくわからないのです。その結果、利用者がメイク後の顔をイメージしに
くいという現象が起きています。
そこでメイク技術者には、メイク後のイメージをきちんと伝える能力と、本人
がどの程度のカバーを望んでいるのか聞き出す能力とが必要となってくるのです。
このやり取りが上手くいかないと、せっかく素晴らしいメイク技術を持ってい
ても、当事者の満足のいく結果にならないことも多いからです。
●これも必要?

カバーメイクに対する期待が大きければ大きいほど、メイク技術者によせる信
頼も大きくなります。それだけ切実な思いを抱えているということです。
そのため、メイク技術者がカウンセラーのような役まわりをすることがありま
す。そして、当事者は、メイク技術者のひと言に一喜一憂し、心底頼り切ってし
まうのです。故に、メイク技術者にはカウンセリングの技術も必要だと説く人も
います。

でも、それは危険なことです。とくに、望み通りのメイクを施術してもらった
ときには、そのメイク技術者に心酔してしまうこともあります。カウンセリング
の専門知識もなく、経験とカンを頼りにカウンセラーのまねごとをするなんて、
危険きわまりないことです。餅は餅屋。カウンセリングはカウンセラーに任せる
べきです。

ただ、「ここから先はカウンセラーに任せよう」という判断をするためには、
カウンセリングとはどういうものなのか、カウンセラーとはどういう役割を
担っているのかを知ることは大切です。

また、医学的知識も、顧客のニーズに応えるためには、ある程度必要となりま
す。症状について基本的なことくらいはわかっていないと、そもそもメイクすら
できません。たとえば、単純性血管腫(※1)とはどういう症状なのかまったく
知らなかったら、強く触ったりしても良いのかどうかわからず、ファンデーショ
ンをぬることすらできませんから。
ただし、専門的な知識までは不要です。わからないことがあれば本人に確かめ
れば良いのです。むしろ、こういう事実を確認しながらメイクを進めていくこと
も、ニーズを知る上でも重要です。
●メイク技術者の資質とは

メイク技術者として、絶対に不可欠な資質があります。それは、「聞く耳」を
持つことです。
相手が何を言わんとしているのか、何を望んでいるのか。それを素直に聞く姿
勢が大切なのです。間違っても、(たとえ技術的にはその方が好ましいとしても)
自分の意見を押しつけたり、相手の疑問や不安を一笑に付したりしないで下さい。

(続)
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※1 単純性血管腫(たんじゅんせいけっかんしゅ)
赤アザ。皮膚のすぐ下で、毛細血管が過剰に増えている状態、あるいは毛細血
管が拡張しっぱなしの状態。その血液の色がすけて赤く見えています。

★主な参考文献★

『メディカルメイクのすべて』
(NPO法人メディカルメイクアップアソシエーション・編)
※『メディカルメイクのすべて』は、NPO法人メディカルメイクアップアソシ
エーションで販売しています。(Amazon.co.jpでは扱っていません。)
詳しくはこちら http://www.medical-makeup.net/news/19.html

『見つめられる顔 ユニークフェイスの体験』(絶版)

『フレグランス・ジャーナル 2006年2月号』

『出会い、そして奇跡 愛の灯を点して25年』(仲川幸子・著)(絶版)

「カムフラージュメイクは万能ではない」(西倉実季)
(『コスメトロジー研究報告 Vol.13/2005』)

☆その他の参考資料☆
グラファ ラボラトリーズ株式会社のホームページ http://www.grafa.jp/
『医療スタッフのためのリハビリメイク』
『リハビリメイク 生きるための技』
ほか

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