第7回 カバーメイク(3)

第7回 カバーメイク(3)
目次:カバーメイク

1 カバーメイクとは
2 歴史(「カバーマーク」誕生から日本導入まで)
3 カバーメイクの功罪
4 カバーメイクの目的
5 今、日本では(日本の現状)

※1および2はメルマガ83号に掲載しています。
※3の前半はメルマガ84号に掲載しています。

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前回ご紹介したように、カバーメイクには様々な効果(メリット)があります。
そして、これらのメリットと一対をなすように、問題点(デメリット)が存在し
ます。
今回は、その問題点(デメリット)について書いてみました。
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3 カバーメイクの功罪

◆問題点(デメリット)
(1)あくまでも「化粧」
●「まったく何もない肌」にはできない

カバーメイクは、あくまでも「化粧」の一つです。したがって、「メイクをし
ている」という事実は変えることはできません。ファンデーションをぬっている
肌は素肌とは違います。
極々少量のファンデーションを薄くぬっているだけであれば、一見しただけで
はファンデーションをぬっていることがわからないようにすることもできますが、
その場合は「アザの色がワントーン落ち着いて見える」、あるいは「極々薄いア
ザがカバーできる」程度です。

(2)治療(外科手術やレーザー治療など)と比べて
●技術を習得しなくてはならない

治療は他人(医者)がやってくれますが、メイクは自分でしなくてはなりませ
ん。そのためには、まずメイク技術を習得する必要があります。

カバーメイク専用のファンデーションは、普通のファンデーションよりも粘性
のあるクリームタイプのものが一般的です。カバー力を高めるためなのですが、
それによって、少々扱いにくくなっています。
独自にぬり方を研究することも可能ではありますが、やはりある程度指導を受
けなければ上手には扱えないでしょう。どんなにカバー力のあるファンデーショ
ンを使ったとしても、きちんとした技術が身に付いていなければ満足のいく仕上
がりにはなりません。

●めんどう

当然ですが、その都度メイクしなくてはなりません。

しかも、通常、まずカバーメイクを仕上げてから普通のメイクをするわけです
から、二重の手間がかかります。
化粧品(ファンデーション)もカバー用と普通用の2種類が必要です。

(3)社会生活において(対他者効果)

症状をカバーして目立たなくすることにより、ジロジロ見られるというストレ
スから解放されたり、他人とスムーズにコミュニケーションがとりやすくなった
りします。
反面、新たなストレスが出現してしまうこともあります。

●カミングアウトできない

カバーメイクをするようになってから知り合った人には、素顔を見せることが
非常に難しくなります。相手は症状のある顔を知らないので、もしそれを知った
ら人間関係にひびが入ってしまうのではないかと不安だからです。そして、その
不安(ストレス)に耐えきれず、当事者の方から関係を断ち切ってしまう場合も
あります。
また、日本では「社員旅行は温泉」という企業が圧倒的に多く、そのため会社
を辞めてしまったというケースもあります。「温泉旅行に行って温泉に入らない」
というのは非常に不自然で、たとえ一度は風邪気味だとか言って乗り切ることが
できても、二度三度と続けることは無理でしょう。「社員旅行に参加しない」と
いう方法も考えられますが、毎年不参加ともなれば、やはり不審がられてしまう
でしょう。結果、会社を辞めざるを得ない事態に追い込まれるのです。

●化粧くずれが気になる

普通のメイクであっても化粧くずれは気になります。疲れているように見られ
たり、不健康に見られたりするものです。
しかし、カバーメイクの場合の化粧くずれは、そんな程度の心配では収まりま
せん。「化粧くずれ」=「カバーした症状が見えてしまう」からです。
「化粧くずれが気になり仕事が手に付かない」「頻繁に化粧直しに立つため不
審がられる」などと、よく聞きます。また、「化粧品を忘れてしまったため(化
粧直しができないので)会社を早退した」ということだってあります。

●メイクなしでは生きていけない

少し大げさすぎるのではないかと思われる方もいるかもしれません。

これは、ある単純性血管腫(※1)の女性(20代)の手記です。

《メイクをすることで、なんて気が楽になるんだろう。私からメイクを取った
ら、私は生きていけない。もし家が火事になったら、一番最初に、メイクセット
を持って逃げるだろう。私は、もう素顔では外に出られなくなってしまった。
スッピンで外へ出ることは、裸で外へ出ることと同じくらい恥ずかしい。私には
耐えられないことだ。そう、私は今も素顔では外に出られない。
昼間は、玄関先にも、庭にも、ベランダさえも、出ることはできなくなってし
まった。》(『見つめられる顔 ユニークフェイスの体験』より)

実は、「普通の顔」をした女性でも、スッピンでは外出できないという人は、
意外と多いものです。たしかにメイク前と後とでは、かなり印象が変わる人もい
ます。しかし、カバーメイクの場合は、印象云々という問題では、到底ありませ
ん。
外出時だけではなく、家の中にいるときですら素顔になれない。そんな人も少
なくありません。宅急便や書留が届くかもしれないし、近所の人がやってくるか
もしれない。ベランダで洗濯物を干すときも、近所の人に見られるかもしれませ
ん。うっかりカーテンの開いている窓に近寄ったとき、表を歩いている誰かに見
られるかもしれない。考え出したらキリがありません。
当事者の方の中には、もう何年も、家族にすら素顔を見せていないという人も
います。

(4)自分自身の変化(対自己効果)

カバーメイクをするのは、いくらかでもストレスを減らし、少しでも楽に過ご
すためであって、けっして自分をあざむくためでも、ましてや他人をだますため
でもありません。
にもかかわらず、思い悩んでしまうこともあります。
●自己否定

なぜ「普通の顔」に合わせなくてはいけないのか。おそらくほとんどの方が感
じていることだと思います。
自分は「症状がある、そのままの自分を認めて欲しい」と思っているのに、自
ら症状をカバーして隠してしまっている、それは自分で自分の顔(ありのままの
存在)を否定していることではないのか。そう自分自身を責めてしまう人もいま
す。

●症状の再確認

毎朝メイクでアザをカバーするとき、そして毎晩メイクを落とすとき、あらた
めて「自分の顔にはアザがあるという事実」を確認することになります。メイク
の度にくり返しくり返し確認することで、「この事実からは逃れられないのだ」
ということを何度も再確認することになります。

(5)まわりとの関係

完璧にカバーができて、誰の目にも症状があることがわからないとしても、自
分自身だけはその事実を知っています。
●後ろめたい

「自分は嘘をついている。まわりをだましている」のだと、後ろめたく感じて
しまう人もいます。
友だちは何でも話してくれているのに、自分は一番大切なことを話さずにいる。
そのことを申し訳なく思ってしまうのです。
もちろん、そんな感情をもつ必要はありません。本人たちもそれはわかってい
るのですが、感情は理屈では抑えきれないこともあるのです。
まわりの人を大切に思えば思うほど、さらに自責の念は深くなっていきます。

●もう大丈夫だという思い込み

カバーメイクをしているということは、相手に「この人は自分の症状をしっか
りと受け止められる心の余裕がある人だ」という印象をあたえる効果があります。
しかし、ときとして、それがデメリットを引き起こしてしまう場合もあります。
つまり、本人が無理をしてふるまっているのに、まわりは、(この人はもう乗
り越えていて)大丈夫だと思い込んでしまう危険があるのです。
本人もまわりに心配をかけましとして、さらに無理して頑張ってしまうという
悪循環に陥ってしまうこともあります。

●赤ちゃん、子供へのメイク

当事者本人が赤ちゃんや幼い子供の場合、本人ではなく、親の意向でメイクを
するわけです。それは、当の子供自身に「この顔はメイクで隠さないとダメなん
だ」「あるがままの自分は否定されている」ともとられかねません。
「症状があってもなくても、まるっとそのまますべてを愛している」と伝え、
本人が不安がらないよう気をつけることが大切です。
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ある単純性血管腫(※1)の女性(30代)は、こう書いています。

《「汚い、気持ち悪い」とののしられる苦しみには慣れているし、耐えること
もできる。しかし隠すという苦しみが自分の精神をどれほどむしばんでゆくのか
は想像もつかなかった》と。そして、彼女はカバーメイクはしないという選択を
しました。

カバーメイクには様々な効果(メリット)と問題点(デメリット)が存在しま
す。使い方次第では非常に力強い味方でもありますが、一方、かなりのストレス
を抱え込んでしまう危険性もあります。しかし、必要以上に怖がることなく、メ
リットとデメリットをよく考慮した上で、カバーメイクをするかしないか決めれ
ばいいのです。

(続)
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※1 単純性血管腫(たんじゅんせいけっかんしゅ)
赤アザ。皮膚のすぐ下で、毛細血管が過剰に増えている状態、あるいは毛細血
管が拡張しっぱなしの状態。その血液の色がすけて赤く見えています。

★主な参考文献★

『メディカルメイクのすべて』
(NPO法人メディカルメイクアップアソシエーション・編)
※『メディカルメイクのすべて』は、NPO法人メディカルメイクアップアソシ
エーションで販売しています。(Amazon.co.jpでは扱っていません。)
詳しくはこちら http://www.medical-makeup.net/news/19.html

『見つめられる顔 ユニークフェイスの体験』(絶版)

『フレグランス・ジャーナル 2006年2月号』

『出会い、そして奇跡 愛の灯を点して25年』(仲川幸子・著)(絶版)

「カムフラージュメイクは万能ではない」(西倉実季)
(『コスメトロジー研究報告 Vol.13/2005』)

☆その他の参考資料☆
グラファ ラボラトリーズ株式会社のホームページ http://www.grafa.jp/
『医療スタッフのためのリハビリメイク』
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ほか

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