第6回 カバーメイク(2)

第6回 カバーメイク(2)
目次:カバーメイク

1 カバーメイクとは
2 歴史(「カバーマーク」誕生から日本導入まで)
3 カバーメイクの功罪
4 カバーメイクの目的
5 今、日本では(日本の現状)
※1および2はメルマガ83号に掲載しています。
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どんな良薬でも必ず副作用があるように、いかなることにもメリットがあれば
デメリットもあります。

今回は、まず、カバーメイクの効果(メリット)について書いてみました。と
りあえず誉めておいてから落とす・・・というわけではないのですが(笑)

それから、章を一つ、増やしました(4 カバーメイクの目的)。当初は「カ
バーメイクの功罪」の中に入れ込んでいたのですが、結構ボリュームがあるので、
独立した章として改めて書き直しました。
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3 カバーメイクの功罪

◆効果(メリット)
(1)化粧の心理的効果

お化粧には、心理的な効果が認められています。(※1)

●高揚感(表情が明るくなる、やる気が出る)
●快い緊張感(気持ちが引き締まる)
●自信や満足感が高まる
など

ひとことで言うならば、「シャキッとする」。朝、出勤前に化粧をするのは、
それが常識的な暗黙のルール(会社にはスッピンで行かない)だからということ
もありますが、寝ぼけモードから仕事モードへの切り替えの意味もあります。
この化粧の心理的効果は、日常的に化粧をしている女性であればピンとくると
思いますが、化粧をされない方や男性には「ふ~ん、そういうもんなんだ」くら
いかもしれません。なにか他に似たようなことがないかと考えてみたのですが、
「歯をみがく」とか「ネクタイをしめる」かなぁ(ちょっと違うか)。

カバーメイクも化粧の一環ですから、もちろん化粧そのものの効果も持ち合わ
せています。
(2)治療(外科手術やレーザー治療など)と比べて

アザやキズをどうにかしたい。そう考えたとき、まず真っ先に思い浮かべるの
は治療(外科手術やレーザー治療)でしょう。現代の医療技術をもってすれば、
どんなアザやキズだってキレイになる。そう信じて疑わない方も多いのではない
でしょうか。しかし、実際はそう簡単ではありません。以前に少し触れましたが、
レーザーによるアザの治療率は約20%ですし、皮膚移植をすれば手術痕はどうし
ても残ってしまいます。(※2)

では、治療と比べると、カバーメイクにはどのようなメリットがあるのでしょ
うか。
●痛みがない

あくまでもメイクですから、痛みはありません。

●自分で(自宅で)できる

治療が他人まかせ(医者まかせ)なのに対して、メイクは自分で行います。メ
イク技術さえ習得してしまえば、自分の思うように、気の済むまでできるのです。

●何度でも、やり直しが可能

治療は、結果が気に入らなくても(思っていたような効果が得られなくても)、
治療前よりもかえってひどい状態になってしまっても(大きなキズ痕が残ったり、
レーザーによってケロイド状態になってしまったりなど)、無かったことにはで
きません。「治療前」の状態には戻せないのです。
しかし、メイクであればやり直しができます。納得がいくまで何度でも。そし
て、結果として「カバーメイクはしない」という選択をすることも可能なのです。
やってはみたものの思ったほどの効果が得られず、「これならメイクしなくても
いいや」と思ったならば、もうカバーメイクをしなければいいのです。
(3)社会生活において(対他者効果)

私たちは、望むと望まざるとに関わらず、社会の中で生きています。他人と全
く関わることなしに生活することはできません。
では、他人とスムーズにコミュニケーションをとり、快適な社会生活を送るた
めに、カバーメイクにはどのような効果があるのでしょうか。

●他人からジロジロ見られない

症状をカバーして目立たなくすると、道ですれ違ったり、電車に乗り合わせた
人たちにジロジロ見られるというストレスから解放されます。カバーメイクの最
も顕著な効果と言えるでしょう。

●おしゃれや買い物が楽しめる

症状が目立たない(ほとんどカバーできる)おかげで、おしゃれや買い物を気
兼ねなく楽しむことができるようになります。
「そんなことは、別に症状があってもできるのでは?」と思われるかもしれま
せんが、ユニークフェイス当事者(※3)の中には、ファッショナブルで華やか
な場所は苦手だと感じる人が少なくありません。気後れしてしまったり、相手
(店員)やほかの客が不快に感じるのではないかと心配してしまったりするので
す。(※4)

●就職ができる

遠回しに断わられる場合が多いのですが、中には、あからさまに「見た目」を
理由に断る企業もあります。とくにサービス業関係は壊滅状態です。そもそも、
カバーメイクの生みの親リディア・オリリーが「カバーマーク」を発明するきっ
かけとなったのも、デパートの就職試験に不採用になったからでした。(詳しく
は、前号のメルマガをご参照下さい。)

●症状に気を取られることなく、リラックスして関係が築ける

親しくなる前、とくに初対面では、相手はどうしても症状が気になってしまい、
上手く関係が築けないことがあります。けっして相手に悪気があるわけではなく、
むしろ傷つけまいとの思いから緊張してしまうのです。
それ故、その症状がカバーメイクで目立たなくなっていると、緊張せずに、リ
ラックスして、外見にとらわれることなく中身(人となり)を見ることができる
ようになるのです。
(4)自分自身の変化(対自己効果)

カバーメイクによって、自分自身も変化します。そして、その変化がまわりと
の関係においても影響を及ぼします。

●自分の顔を客観的に見ることができるようになる

メイクをするためには、当然、鏡で自分の顔を見なくてはなりません。しかも
カバーメイクをするのであれば、とくに症状の部分をじっくりと見ることが必然
的に多くなります。メイクをするたびに症状をじっくり見る。それが功を奏し、
自分の症状を客観的に評価できるようになるのです。

アザやキズの大きさ、濃さ、質感などがわかっていなければ、どのようにメイ
クをすればいいのかわかりません。より効果的に、より自然にカバーするために
は、まずは状態をきっちり把握する必要があるのです。

●自己肯定感のアップ

症状のせいで他人からジロジロ見られたり、心ない言動で傷つけられてきたた
めに、「自分はダメな人間だ」と卑下し、何事にも尻込みをしてしまいます。
それ故、その症状が目立たなくなることで、それまでの萎縮が解け、積極的に
なることができます。たとえば先に挙げたおしゃれや買い物を楽しむというのも、
その一つです。
社交性が高まり、友人が増えたり、いろんなことにチャレンジしたりするよう
になります。

そして、自分の症状を客観的に見ることと相まって、アザやキズを「人間性を
おとしめる要素(=アザやキズがある人は、人として劣っている)」としてでは
なく、「単なる事実」として捉えることができるようになります。

その結果、自己肯定感(「ありのままの自分、そのままの自分でいいんだ」と
自分自身で認めること)が高まり、症状にとらわれず、本来の自分らしさが発揮
できるようになるのです。
(5)まわりとの関係

家族や友人といった身近な人たちとの関係にも、カバーメイクは影響を及ぼし
ます。

●家族が安心

「できることなら代わってやりたい」と思うのが親心です。そして、代わって
やれないのならば、治療をして治してやりたい。その治療も無理ならば、せめて
メイクでカバーしてやりたい。そう思うものです。
そんな親の気持ちが痛いほどわかる。だから、たとえ自分ではメイクは必要な
いと思っていても、親に罪悪感を持たせないために、そして、余計な心配をかけ
ないためにメイクをしている人もいます。

●もう大丈夫というメッセージ

カバーメイクに限らず普通のメイクに関しても同じことが言えるのですが、身
だしなみがきちんとしていて、メイクも適度にしている人は、精神的にも安定し
ているように見えます。
そして、カバーメイクをしているということは、自分自身の症状と真正面から
向き合っていることでもあります。つまり、相手に「この人は自分の症状をしっ
かりと受け止められる心の余裕がある人だ。この人となら普通につきあえるだろ
う」と思わせる効果があります。
(6)保険的効果

保険的効果とは、「いざというときはメイクでカバーすればいいんだ」と安心
することができる効果です。

●赤ちゃんへのメイク(親が安心、親の心理的安定)

当事者本人がまだ赤ちゃんの場合、当然ですが、本人が症状のことで悩んでい
るわけでも、メイクをしたがっているわけでもありません。親がメイクさせたい
と望んでいるのです。
それは、本人がカバーメイクをしたいと思ったときに、すぐ対応できるように
準備しておくためなのですが、実は、もうひとつ理由があります。

とくに先天性(生まれながらに症状がある)の場合に多いのですが、親自身が
症状を受け止められない人が少なくありません。子どもの将来を悲観することも
ありますし、子どもにそのような症状があるという事実が素直に認められない人
もいます。なんの予備知識もなく、突然の出来事なので、パニック状態になって
しまっているのです。

そのような場合、赤ちゃんにカバーメイクを行うことで、「いざというときは
メイクでカバーすればいいんだ」と親が安心し、精神的に安定して子育てができ
るようになります。

●最終手段として

治療には痛みもともないますし、金銭的な負担もかかります。劇的な結果をも
たらさないこともあれば、治療そのものが不可能なことだってあり得ます。
そんなとき、「治療じゃなくても、メイクという手段がある」と思えるだけで、
ずいぶん違います。実際にカバーメイクをするかどうかは、この際、問題ではあ
りません。「いざというときには・・・」と思えるかどうかが重要なのです。

人の気持ちはアップダウンがあります。普段は気丈にしている人でも、ふとし
たとき、気弱になってしまうことだってあります。そんなとき、「いざとなった
らメイクがある」と思えば、気持ちを奮い立たせることだってできます。

また、こんな方もいました。男性で、外科治療を受けた方だったのですが、
「もし、若い頃、カバーメイクの存在を知っていたなら、治療(皮膚移植)は受
けなかった」と言われました。
治療をするかどうか迷っているとき、あるいは、大人になってから(自分で判
断できる年齢になってから)じっくり考えればいいと思っているときなど、とり
あえずの手段としてカバーメイクをすることだって方法の一つです。

そのほか、卒業式や成人式、結婚式といったイベントのときだけカバーメイク
をする(普段は一般的なメイクのみ)という方もいます。日常生活と違い、大勢
の見知らぬ人たちと出会う場面では、(ジロジロ見られたり、失礼な質問をされ
るなどの)わずらわしさから逃れるため、カバーメイクをするというパターンも
ありなのです。
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このように、カバーメイクには様々な効果(メリット)があります。そして、
これらのメリットと一対をなすように、問題点(デメリット)が存在します。
次回は、その問題点(デメリット)について書いていきます。

(続)
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※1 化粧の心理的効果について
今回は、カバーメイクについてなので詳細は省きますが、「化粧の心理的効果」
をもっと詳しく知りたい方は、以下の書籍が参考になるかと思います。

『化粧心理学 化粧と心のサイエンス』
『化粧行動の社会心理学 化粧する人間のこころと行動』
『フレグランス・ジャーナル 2006年2月号』(月刊誌)
※2 治療について
治療については、メルマガ第65号に掲載したコラム『My “SHITAMACHI” Style』
第40回「治療」にいろいろと書いてますので、そちらをご参照下さい。
※3 ユニークフェイス
NPO法人ユニークフェイスでは、顔や体にアザ、ヤケド、キズなどの症状が
ある人たちを「ユニークフェイス当事者」と表現し、彼らの声を社会に発信して
います。
「ユニーク」とは「固有の」と言う意味。「ユニークフェイス」とは「固有の
顔(私たちは、みな、それぞれ固有の顔をしている)」という意味です。

NPO法人ユニークフェイス:http://www.uniqueface.org/
※4 おしゃれや買い物が楽しめる
『脂肪と言う名の服を着て』(安野モヨコ・著)というマンガがあります。主
人公は太っているOL。ユニークフェイス当事者ではありませんが、太っている
ということも、今の社会では生きづらいことなのです。
彼女はダイエットやエステで痩せるのですが、服を試着したり、美容院で髪を
染めたりするときに太っている頃のクセでおどおどしたり、ビクビクしたりする
シーンが描かれています。

★主な参考文献★

『メディカルメイクのすべて』
(NPO法人メディカルメイクアップアソシエーション・編)
※『メディカルメイクのすべて』は、NPO法人メディカルメイクアップアソシ
エーションで販売しています。(Amazon.co.jpでは扱っていません。)
詳しくはこちら http://www.medical-makeup.net/news/19.html

『見つめられる顔 ユニークフェイスの体験』(絶版)

『フレグランス・ジャーナル 2006年2月号』

『出会い、そして奇跡 愛の灯を点して25年』(仲川幸子・著)(絶版)

「カムフラージュメイクは万能ではない」(西倉実季)
(『コスメトロジー研究報告 Vol.13/2005』)

☆その他の参考資料☆
グラファ ラボラトリーズ株式会社のホームページ http://www.grafa.jp/
『医療スタッフのためのリハビリメイク』
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ほか

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