Vol.16 「芥川スズキ」 -後編-

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「芥川スズキ」 -後編- ( 『鼻』 芥川龍之介 + 松尾スズキ )

芥川ってモラリストなんだ。前回紹介した三作品読めばわかる。(ま、児童文
学でアンモラルはまずいけどサ)しゃれのわかるモラリストで、頭の回転が速く
ってさ、ほとんど完璧だったのに、なんで自殺なんかしちゃったのかなあ。
いけね、『鼻』のこと書かなきゃ。ラスト、内供(ないぐ)さんは、もとの鼻
に戻って安心するわけだけど、現代ではどうなんだろう?
内供さんのケースは病気なのかどうなのか、わからないけれど、行った治療?
は、どちらかというと現代の「美容整形」に近いようなものだと思う。最近の感
覚だと、美容整形も「それでコンプレックスを解消できるなら、いいんじゃない」
という意見が多い気がする。ただ、やっぱり元の顔を知っている人は気になるか
ら、つい(悪気はなくても)、顔を見てしまうかも。
でも、この作品のテーマはそこじゃない。芥川はこう書いている。
<人間の心には互に矛盾した二つの感情がある。勿論、誰でも他人の不幸に同
情しない者はない。所がその人がその不幸を、どうにかして切りぬける事が出来
ると、今度はこっちで何となく物足りないような心もちがする。少し誇張して云
えば、もう一度その人を、同じ不幸に陥れて見たいような気にさえなる。そうし
ていつの間にか、消極的ではあるが、ある敵意をその人に対して抱くような事に
なる。>
残念ながら人間はエゴイスティックな生き物で、こういうところは誰もが持っ
ているんじゃないかと思う。

例えば、私が酔ったはずみにサ、街のホームレスの人に一万円握らせたとする
(上から目線でサ)。その人は「ありがとう」と感謝したとする。で、半年くら
い後にその人がベンツかなんかで我が家に「あの一万円で宝くじを買ったら3億
円当たりました。本当にありがとうございました」とお礼を言いに現れたとする。
菓子折りかなんか片手に。それでひとしきり、車や家を買っただのもう年寄りだ
から死ぬまで働かないでもやっていけるだの、自慢めいた話をし、帰ったとする。
釈然としないよね。一万円はあげたもんだし当選金をわけろと言うのはおかし
い、理屈的にはわかる。それに自分は宝くじは買わなかっただろうし、たとえ買
っていたとしても、当たる確率はものすごく低い。それもわかる。しかし、納得
がいかない。腹が立つ。そして「一万円なんかやらなきゃよかった」と思う。
大きな目で見れば人一人の生き方を変えられたのだから、「一万円」の使い方
としては物凄く有効だったハズだが、そんな風にはとても考えられない。
ああ、暗い話だなあ。でも、仕方ないかな。開き直るわけじゃないけど、人間
ってどうしようもないくらい不完全な生き物だから。それを認識しながらどうや
っていくか考えるしかないと思うし。

と、ここまで書いたのが半年くらい前でサ、(けっこう自分でボツにしてる原
稿あるんです。)なんかなあ、ラストどうしよう? うまく決めらんないなあ、
暗いまま終わるのはイヤだし、と思ってるうちにあっという間に時間が・・・。
で、いきなり話し飛ぶんだけど、この間から松尾スズキのエッセイとか対談集
とかを4、5冊続けて読んだのね。松尾スズキって人はクドカンの師匠みたいな
人で、「大人計画」って劇団の主宰者なんだけど、まあ私は松尾スズキの劇も映
画も(クドカンのも)見たことないんだけどさ、本は面白いから読んでる。いや、
本以外も面白いだろうとは思うんだけど。
そしたら、その中の一冊で、「障害を持った人や、在日外国人の人たちを障害
や差別の苦悩とは関係ない役で、例えば通行人や隣の兄ちゃんの役で配役すべき
である。彼らだって24時間そういう問題と戦っているわけではない。淡々と消費
する日常がある。(中略)隠蔽しない。それが”特別視”からの一つの突破口な
のだ」と書いていた。
これはまっとうな意見だなあって思った。在日外国人の人はまだ「感動」とは
関係ない役の場合もあるけど、障害を持った人は「感動」する話にしか出てこな
いもの。勿論、メディアに出ても構わない、むしろ出たいという当事者の方たち
がどれだけ居るのかっていう、その手前の問題はあるけど。

つうか、この話持ってきても別にうまく終わんないことに気づいた。蛇足だよ、
これ。けど、これ以上書いても蛇足の蛇足というか、屋上屋上屋というか、ワケ
がわからなくなるだけだし。書こうと思えば書けるけど。長く書く、長くしか書
けないってのはヘタクソな証拠なんだよね、本当は短くビシッと決めたいんだけ
ど、いつも長くなっちゃう。ビシッと決めらんないなあ。だらだら続いちゃう。
ダラダラダラダラ。スパッと切んなきゃ、スパッと。・・・擬音だらけだな。・
・・もういいですかね。そろそろ。

じゃあ、またってことで。おしまいにします。

(了)

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