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Vol.05 みかけは人を支配できるか

2010年1月9日

みかけは人を支配できるか
(姫野カオルコ 著 『整形美女』 )

今まで、「周囲と違う外見」をテーマにした本を扱ってきたこの連載も5回目となった。しかし「みかけ」とは何らかの症状を抱えて初めて語られるような問題ではない。そこで今回はちょっといろいろな症状を離れて、外見そのものに関する問題を扱った本をとりあげてみたい。

物語は甲斐子と阿倍子というふたりの女性の外見と内面の変化を巡るものである。タイトル通りその変化をもたらす鍵は「整形」。

愛されに愛されて、君は神からその肉体を与えられたのに―。

そんな老整形外科医の嘆きを無視して甲斐子は美しい身体にメスを入れる。そして「ブス」である自分を嫌う彼女は綿密な「計画」の下に着々と自らの外見、そして内面を改造してゆくのだった。

一方彼女の同級生である阿倍子はそんな甲斐子の写真を持って美容整形外科に赴く。「凄い美人」と多くの男たちを夢中にさせる阿倍子は甲斐子とは正反対と言って良い容貌を持っていたのである???

多分、ここまでを読んだだけで「???」と思われた方は多いのではないか。そう、この作中では一般に美容整形の見本になるような容貌の女性が、その容貌ゆえに寂しさやコンプレックスを味わい、正反対と言える容貌の女性は「美人、かわいい」と言われながらこれまた悩んでいたりする。彼女たちの容貌に対する描写表現や周囲の人物のちぐはくな反応に読者は混乱する。

やがて、彼女たちは「美容整形」という手段を使って自分たちの容貌を逆転させ、いつの間にやらその内面までもが容貌に合わせて変化してゆく。但し、一方は「計画」に基づき、他方は否応なしに、ではあるが???

気にかかるのは彼女たちの内面の変化が、外見上の変貌に実にきれいに連動していることである。二人とも華やかな容貌を持っている時は潔癖症ではっきりとした言動をとり、豆粒のような目を持つ鼻の低い女性である時はおおらかな様子で他人の相槌ばかりをうっている。そこはフィクション、と言ってしまえばそれまでなのだが。

しかし外見の変化によって変わるものはこの現実社会にも確かに存在する。例えば周囲の人間の反応はどうだろう。服装などを整えている時の方が見知らぬ人からは好意的な扱いを受けやすい、などという経験を持つ人は多いのではなかろうか。そして周囲の人間の自分に対する反応によって、自分自身が周囲に向ける反応や考え方が変わる、ということも確かにあり得る。

そう考えると、整形などによる継続的な外見の変化がその人の周囲に対する考え方や対応を継続的に変えてしまう、ということも決して考えられないわけではない。自分の心は自分の物であるはずなのに、実際その移り変わりは周囲の環境に大きく左右されうるものだ。そう考えると少しばかり、ぞっとするのは私だけではないだろう。

それにしても妙な名前の主人公たちである。
カイコとアベコ。甲斐だの阿倍だの、苗字じゃないんだから・・・。
そう思って見てみると脇役の名前もその多くが実に変わっている。ミカエにアダにヨセ・・・?
そして話自体や目次には何やら昔聞かされた聖書にまつわる言葉やエピソードの断片が散りばめられて・・・どうやらこの話、主人公の二人はカインとアベルになぞらえて描かれたものらしい。となると周囲を固めるのはミカエル、アダム、ヨセフといったところだろう(多分)。

そう納得してみると、なるほどこの作品の中でカインは一度アベルを殺した。甲斐子の美しい姿を求めた阿倍子は、代償としてそのすこやかな内面を見失うことになるのである。それでもやがては元の自分を取り戻す美しいアベルとは対照的に、カインの甲斐子はかつての自分を忘れて果てる。そして神の前を追われたカインが辿り着いたエデンの東、ノドを思わせる都会の街をさまよい歩いてゆくのである・・・。

とことん「みかけ」というものに翻弄された二人の女性。このカインとアベルにとって寵を求める「神」とはいったい何だったのか。幸せを与えてくれるかもしれない男たちか、嘲笑を浴びせかけてくる女たちか。「神」は人の外見のみならず、その内面までもを支配するのか。しかし物語の中でアベルの阿倍子はその支配を見事に振り切ってみせた。たとえ一旦は殺されようとも。できることなら現実に生きる私たちは、内面の死を経ずしてその支配を逃れる術を身に付けたい。自分の心を支配するのはやはり自分自身に任せたいものである。

※参考:カインとアベルについて
 http://www.salvastyle.com/data/theme_01_01_04.html

(おわり)

→Vol.06 ポジティブメッセージの功罪

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