第8回 【インタビュー】 ㈱アヘッドラボラトリーズ

第8回 【インタビュー】 ㈱アヘッドラボラトリーズ

08年10月5日のイベント「MFMSオープンミーティング」開催にむけて、参加
していただく団体や企業のみなさんをご紹介します。

今回は、㈱アヘッドラボラトリーズさんです。
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エピテーゼとは、先天的、外傷、熱傷、悪性腫瘍切除等により生じた欠損をカバ
ーする人体修復物のこと。人工材料を加工して作製し、審美的及び機能的に修復
し、患者の早期の社会復帰を目的とする。
株式会社アヘッド ラボラトリーズ(以下、アヘッド)は、1990年、米国ロスア
ンジェルスにて創立。1994年、日本支社を設立し、“世界最高レベルの技術”で
患者さんにエピテーゼを作製・提供している。代表取締役常國剛史(つねくにた
けし)氏にお話を伺った。

●エピテーゼ
―「エピテーゼ」って、いったいどういうものなんですか? 説明が難しすぎて
よくわからないんですが・・・。
常國:ははは、そうでしょう(笑) 医学用語は難しいですから。
簡単に申しますと、エピテーゼとは、ドイツ語で人体修復物のことです。
シリコーンやアクリル樹脂、金属などの人工物で作った人工ボディーです。
生まれつきとか事故や病気で体の一部を失い、審美や機能を失ってしまっ
た時に、患部に装着し、健康的な社会生活を取り戻すために使用します。
アヘッドに来られる患者さんは、ガンで顔の一部、目とか鼻とかを切除し
た方が多いですね。
「目や鼻を失った時のための人工ボディー」。なるほど、何となく想像は出来る
が実感がわかない。そこで、実物を見せてもらった。

https://ahead-lab.com/epithese-prothese/

―すごくリアルですね。リアルすぎて、ちょっと怖いくらいです。
常國:そうでしょう(笑) エピテーゼをつけてる人と街で出会っても、全然気
づかないと思いますよ。
たしかに、皮膚の質感やシワなど実によく出来ている。エピテーゼをつけている
と知ってて、まじまじと見つめない限り、まず分からないのではないだろうか。
それにしても、エピテーゼを見ていると何とも落ち着かない気分になってくる。
ただの「モノ」なんだが、魂がこもっているように感じられるからだ。ここまで
本物そっくりに作ることができるのは、単純に技術的な問題だけではないのでは
ないか。患者の思い、おかれている環境、日常生活での困難。そういったことに
まで思いを巡らせ、少しでも社会復帰の手助けになればという信念が伝わってく
るようだ。そうでなくては、ここまで迫力のあるエピテーゼはできないのだろう。

●エピテーゼ普及のために
―エピテーゼが必要な人って、どのくらいいるんですか?
常國:いまや国民の3人に1人はガンで亡くなっています。ガンの専門医による
と、腫瘍切除により頭頚部(とうけいぶ)領域に欠損が生じてしまう患者
さんは、年間数百人はいらっしゃるということです。厚生労働省の発表に
よりますと、先天的やその他の事故も含めると年間2万人にも上るそうで
す。
―そんなに?! でも、エピテーゼの存在はあまり知られていないと思うのです
が?
常國:そうですね。世界レベルでは、古代エジプトやメソポタミヤ時代にエピテ
ーゼらしきものが確認されています。日本でも江戸時代には入れ歯と同様
に入れ眼や入れ鼻が発見されています。
現在、欧米ではエピテーゼ治療は一般化され、普及率も高いのですが、日
本のエピテーゼ治療は、欧米に比べて一般には知られていないのが実情で
す。そのため、目や鼻を失った患者さんの多くは、ガーゼで患部を覆い、
引きこもりがちな生活をされています。肉体的だけではなく精神的にも大
きなダメージを受けて、躍動的な生活が出来ないのが現状です。また、患
者ご本人だけでなく、ご家族や周囲の人々に与える悪影響も計り知れない
ものがあります。
ある日突然、目や鼻を失ってしまったら・・・。命は助かったとはいえ、その後
の人生が過酷であろうことは容易に想像がつく。引きこもってしまう人が多いと
いうのも納得だ。エピテーゼと巡り会えるかどうかで、その後の人生は大きく変
わってくるだろう。
―では、エピテーゼを普及させるためには、どうすればいいのでしょうか?
常國:医療機関との連携、学会での発表、それにマスコミによる広報活動は絶対
に必要です。ですから、外川さんたちが今回企画されましたMFMSオー
プンミーティングのような活動は、非常に意義があり、今後も継続し、大
きなイベントに成長するよう願っております。私どもと致しましてもぜひ
協力させて頂きたく思います。
2005年に静岡がんセンターにエピテーゼ外来が日本ではじめて設立されま
した。それにより、エピテーゼ装着を前提とした外科治療、術後のQOL
(生活の質)を考慮したトータル的な治療が可能となり、3年目を迎え、
多くの外来患者さんが来られるようになりました。
常國先生が以前在籍されていた米国の UCLA Medical Center では診療室と技工
室が隣同士の部屋にあり、医師と技工士が協力して治療を進められる環境が整っ
ていたという。患者の立場からすれば、日本も一日も早くそういう環境となって
もらいたい。
常國:医療関係者ももちろんのこと、さらに、心理学者、医用工学者、メイクア
ップアーティスト、ヘアースタイリスト、タトゥーアーティストなどの
様々な分野のエキスパートの協力が必要です。
現在のエピテーゼは本物の人体と違って「動かないこと」や「色が変わら
ないこと」など多くの問題点もかかえています。その欠点をカバーし、よ
り自然に見えるようにするためには、様々な分野の専門家の知識と技術が
混合しあったチームアプローチ医療が大切です。
―高度化・専門家されたエキスパートが協力して、最高の治療を提供する。まさ
しく医療の理想像ですね。日本ではそういう環境整備は難しいのでしょうか。
常國:そうですね。でも、最近はターミナルケアや緩和医療を取り入れている病
院もあります。ただ、エピテーゼのさらなる普及のためには環境を整える
だけではなく、レベルの高い技術と知識を持ってエピテーゼを製作できる
専門家の育成が必要です。
今、現実には、エピテーゼ製作という分野は技術者不足なんです。アヘッ
ドの例でいうと、九州の病院に日帰りで出張せざるを得ないという状況で
す。若い方には、どんどん挑戦してもらいたいですね。
実は私も工作は大好きだ。もし、10代や20代の頃にエピテーゼを知っていた
ら、間違いなくエピテーゼ技術者を目指していたと思う。一人ひとりの状態にあ
わせて一つひとつ丁寧に作り上げる。それだけでも魅力的なのに、クライアント
から感謝され、社会貢献にもつながる仕事だ。繊細で手先が器用な日本人には、
うってつけの職業だと思う。是非ともエピテーゼの存在が世に広まり、腕の良い
技術者が大勢育ってほしい。

●患者とのコミュニケーション
実際、エピテーゼの現場とは、どういうものなのか。日々、患者と接しているス
タッフの杉田真梨さんにもお話を伺った。
―どういうことを一番気をつけていますか?
杉田:ご本人の意向をきちんと確認するということです。こちらの考えを一方的
に押しつけるのではなく、ご本人やご家族のみなさんと相談しながら進め
ています。
―とはいっても、患者さんは、エピテーゼのことをあまり知らないのではないで
すか?
杉田:そうですね、おそらく、ほとんどの方が実際にエピテーゼをご覧になった
ことがないと思います。なので、どういうものが出来上がるのか、装着後
はどういう姿になるのか、ゆっくり時間をかけてご説明しています。また、
以前のお写真をお持ちいただいたり、ご家族のお話を伺ったりしながら、
患者さんご本人に満足していただけるよう努めています。でも、重要なの
は、100%完璧には戻らないこと、あくまでも人工物だということを理
解して頂くことです。過度の期待を持たせるのは禁物です。
患者とのコミュニケーションについては、アヘッドでは、社をあげて力を入れて
いる。精神科医や臨床心理士のようなカウンセリングのプロを招き、定期的に講
義を受けているという。
常國:患者さんの中には長い闘病生活、入院生活で肉体のみならず精神的にも、
経済的にも苦しんでいる方も多いので、言葉遣いには細心の注意を払うよ
うにしています。それから、何事もポジティブに考え、行動できるように
仕向けます。ご家族のことや趣味の話、その他、日常のニュースなど、何
でも情報を入手し、お互いの接点を見つけます。患者さんの話にしっかり、
ゆっくりと耳を傾けていますと、こちらの情熱が相手に確実に伝わり、私
どもに心を開いて頂けると信じております。また、相手の心を傷つけない
範囲のジョークを多用し、仲間意識を持って頂けるように心がけています。
そうしてコミュニケーションを深め、患者さんの生活環境、行動範囲、要
望、心理的、肉体的、家族構成など全体を把握しながらエピテーゼ作製に
没頭するように心がけています。
関西出身の常國先生。その軽妙なおしゃべりは聞いていてとても心地良い。先生
とお会いするだけで元気になった気がしてくるから不思議だ。スタッフのみなさ
んも明るくて穏やか。そしてアヘッド動物園初代園長の番犬の「えびす」は、い
つ伺っても大歓迎してくれる。

●世界の医療社会に貢献し、立派な社会人に!
―みなさんにメッセージをお願いします。
常國:近い将来、医学や化学の進歩で、ガンも完全に撲滅され、眼や鼻などの人
体、臓器なども再生医療で修復可能な時代が訪れます。
私の夢は、その時、その時代の最先端の治療や研究開発に参加できるよう
なプロ医療集団の基盤を作り、次世代の技術者に任せ、世界中で活躍させ
ることです。残念ながら、現在では人工物のエピテーゼ治療が欠損を持っ
た患者さんたちには福音とされていますが、まだまだ多くの問題点もかか
えています。必ず生きた細胞レベルでの人体修復が可能な時代が来ます。
それまでは、エピテーゼ治療を通じて多くの患者さん、またそのご家族の
力になり、またこちらも症例を通じて多くのことを勉強させて頂き、微力
ながら世界の医療社会に貢献し、社員一同、立派な社会人として成長した
いと考えております。
「アヘッドラボラトリーズに行ってエピテーゼを作ってもらうのが楽しみだ、と
思ってもらえるように」という常國先生。その思いはスタッフの一人ひとり、会
社の隅々にまで浸透してるように感じられる。今後もエピテーゼを通じて、患者
の早期社会復帰につくしていただきたいと切に願っている。

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㈱アヘッド ラボラトリーズ http://www.ahead-lab.com/

→ 第9回 【メッセージ】円形脱毛症を考える会(ひどりがもの会)

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