第6回 【インタビュー】 アピアランスリハビリセンター

第6回 【インタビュー】 アピアランスリハビリセンター

08年10月5日のイベント「MFMSオープンミーティング」開催にむけて、参加
していただく団体や企業のみなさんをご紹介します。

今回は、「アピアランスリハビリセンター(ARC)」です。
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アピアランスリハビリセンター(ARC)では、あらゆる外観(アピアランス)
上の悩みや疑問に対して、本人の意見を尊重しつつ、医療やメイクの専門家たち
と協力して、より積極的な社会生活への復帰の手助けを行っている。ARC代表
の伊藤節子さんにお話を伺った。

●セラピーメイク
―ARCではどういうサービスをされているんですか?
伊藤:主にセラピーメイクを行っています。セラピーメイクとは、メディカルメ
イクアップ(カバーメイク)を基にさらに発展させたもので、「心を癒す
精神的ケア」という新しい考えを基礎においたメイクです。ARCでは、
形成外科、皮膚科、精神科などの専門医に相談しながら行っています。で
きるかぎりご本人の意向に沿うようにしていますが、医学的な治療との関
連や全体とのバランスを考慮して行っています。
―具体的にはどういうメイクですか? 単なるカバーメイクとは違う?
伊藤:(メイクによる)カバーだけを目的にはしていません。患者さんご本人が、
より積極的に社会に参加できるようにサポ-トしています。たとえば、手
術や治療が必要な場合であればその説明をして、信頼できる医療機関を紹
介しています。メイクで解決できるようであればメイクだけをします。そ
れも、患部だけをカバーしたいのであればそこだけをメイクでカバーしま
すし、ビューティーメイクまで望まれるのであれば、そのように対応して
います。
―それは、「見た目」に何らかのハンディがある人だけが対象なんですか?
伊藤:いいえ。生まれつきや事故や病気で、外見に何らかの症状がある方だけで
はなく、思春期特有の悩みや高齢者へのメイク、若返りメイクなど、外観
上のあらゆる疑問や悩みに対して行っています。
―でも、アザやヤケドと高齢者とでは違うのでは?
伊藤:(メイクの)テクニック的なことを言えば、それは違います。ただ、多く
の方にメイクして理解できたのは、病気、事故、老いなど外見に何かが起
きたとき、悩んだり、自信がなくなるのは一緒なんです。症状やその軽重
に関係なく、同じように悩み自信がなくなるように見えます。それならば、
解決策も一緒かなって。つまり、悩みの元になっている外見を整えること
で自信を取りもどすことができればいいんじゃないかと考えています。

●自信がつくメイク
外見を整えることで自信を取りもどす。それは、一見すると、「人は見た目じゃ
ないよ、中身だよ」という考え方に反するようにも思える。その点を正直にぶつ
けてみた。
―それは、内面より外見の方が大事だということですか?
伊藤:いいえ、全然そういうことじゃないです。もともと内面と外見は分けられ
ない、同じだと考えます。どちらも私ですから。どちらの方向から入って
もいいと考えています。
内面を磨くことはとても素晴らしいことだと思います。内面の美しさが外
見ににじみ出てくるのは皆さんご存知の通りです。表裏一体の関係と言い
ましょうか。ただ、内面を磨くのは時間がかかるでしょう。「自信がある」
と思えるまでにはある程度長い時間を要します。それまでは気になっても
我慢するのでしょうか。外見が原因なんだから外見から入る。外見を整え
ることで自信がつくなら早い。それもありだと思っています。

―「外見を整える」というのは、いわゆる「キレイになる」とは違うんですか?
伊藤:もちろん「キレイになる」というのもあります。でも、それだけじゃあり
ません。外見の悩みや疑問を取り除くということです。他人から見ての美
しさの追求ではなく、本人の外見の悩みや疑問を取り除くことによって心
理的な健康がはかられ、自信が持てるようになる。そういう意味では、セ
ラピーメイクとは「自信がつくメイク」と言えます。
内面を磨くには、心のゆとりが必要だ。自信をなくし、生きているだけで精一杯
の人に「内面を磨け」といくら説いたところで、それは無理というものだろう。
そんな心のゆとりを得るためにも、まずは外見を整え自信をつけるというのは、
理にかなった方法かもしれない。
―キーワードは「自信」?
伊藤:実は、私、以前は埼玉県の地域で行政が展開していた女性の地位向上を目
指した活動にたずさわっていたんです。その中で女性が真に力をつけるこ
とが大事だと感じました。経験を積むこと、そのことにより実力をつけ、
その実力に裏打ちされた自信を持つことが、女性の可能性をひろげるとい
うことに気づきました。
1995年の国連世界女性会議(北京会議)のNGO会場だったブースで、伊藤さん
はセラピーメイクのデモンストレーションを行い、希望する各国の女性たちにメ
イクを施した。すると肌の色も文化も異なる女性たちが目を輝かせ、実に生き生
きとした態度に変わっていった。「外見(を整えること)には力がある」と実感
した瞬間だ。
伊藤:内面と外見、どちらが上とか下とかではなく、切り離せないもので一体な
のです。メイクアップの仕事に携わっている人は、みな気がついているこ
とだと思います。それはメイク後にお客様の見せる嬉しそうな笑顔を技術
者は体験しているからです。理論より前に体験しているのです。
あるときアメリカの分子生物学者キャンディス・パート氏の理念を本で知
りました。それで、腑に落ちたというか、やっぱりそうなんだ、と納得で
きました。それは、「すべての細胞に心がある。感情が健康を左右する」
というものでした。細胞に心がある。体と心は一つ。だったら、内面も外
見も同じ。どっちから入ったっていいじゃないかって再確認したんです。
内面と外見、どちらが大事かではなく、どちらも大事で対等だという考え方は、
なるほど女性運動の片鱗がうかがえる。もっとな主張だ。外見を整えることがき
っかけとなり、その人が生き生きと人生を送れるのであれば、試してみる価値は
充分にあるだろう。

●求められるもの
―お話を伺ってると、スタッフのみなさんは、相当いろんな知識や技術が必要で
すね。スタッフの育成はどうされているのですか?
伊藤:メイクセラピスト(セラピーメイクの担当者)には医療的なメイクからビ
ューティーメイクまで、幅の広いテクニックが必要です。また、医療、美
容、心理の基礎的な知識も必要です。そこで、ARCでは、「医美心研究
会(※1)メイクセラピスト養成講座」を修了されてること。NPO法人
メディカルメイクアップアソシエーション(※2)の主宰するメディカル
メイク講座を修了していることが望ましいと考えています。また、現在で
は、修了生たちに臨床心理士による訓練講座も義務付けています。

●メディカルスキンリハビリ
―外見の悩みや疑問を取り除くこと。最近の取り組んでいる「メディカルスキン
リハビリ」も、その考えにそっている?
伊藤:そうです。セラピーメイクを続けてきてわかったのですが、患者さんご本
人が本当に求めているのは、メイクを落とした後の素顔にも自信を持ちた
いということでした。できることなら、何も症状のない肌になりたいと。
ARCでは、看護師でもある呉貞玉氏が、韓国の病院で施術している「メディカ
ルスキンリハビリ」に着目した。皮膚の再生を促す、圧力をかけない特殊なト
リートメント法である。熱傷(ヤケド)は治療後も、皮膚の変色、硬化などの
「見た目」に後遺症が残る人が少なくない。そこで、傷痕の改善、肉体機能の回
復だけではなく、熱傷特有の「見た目」の症状を軽減させるために開発された療
法だ。現在は熱傷だけでなく広く外科手術後の肌の改善として取り入れられてい
る。また、皮膚の健康を保つためには慶応大学医学部の今西医師の考案した静脈
の流れを促進させるヴィノフィスマッサージを行っている。
伊藤:もちろん、限界はあります。そもそも、熱傷は必然的に治療や手術を受
けざるをえない訳です。ですから、ARCでは治療後の患者さんに対して
呉さんのメディカルスキンリハビリを行なっています。

●外見の力を味方にして
―みなさんへメッセージをお願いします。
伊藤:外見は大事と本音では考えていても、それを追求するのは良くないんじゃ
ないかと考える人は現在でもまだいらっしゃいます。例えば、怪我をして
治療を受けるのはいいけど、機能が回復しても外見の修復のために何度も
手術をすることや、シミやシワが気になるくらいで病院にいくのは外見に
こだわりすぎるのではないかと思うことなどです。気になるのは自然なこ
と、解決して先へ進みましょう。
人生は一度きり、自分の持っている可能性を外見で閉ざすことはもったい
ないことです。現在の医療は外見に関する治療法が多く有ります。また、
治療でなく、メイクで解決したい場合もメイク法は多くあります。心に効
く外見の力を味方にして生活を楽しんでほしいと願っています。
「セラピーメイク」にしても「メディカルスキンリハビリ」にしても、その根底
にあるのは、「本人が自信を取りもどし、積極的な社会生活を送れるようサポー
トする」という熱い思いだ。伊藤さんは、「使命を受け取っちゃったから」と言
う。彼女が受け取った「使命」。それに答えようとする彼女の誠実さを、真摯に
受け止めたい。
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※1 医美心研究会
先天性、ケガや病気、加齢などによる外表の形態、および心的ストレスに対し
て、形成外科、皮膚科などの医学と精神心理学および化粧学が協調し一体化して、
その人たちの Quality of Life の向上と真の社会復帰の支援のあり方を研究し
ている団体です。

医美心研究会サイト http://www8.plala.or.jp/ibishin/
※2 NPO法人メディカルメイクアップアソシエーション
皮膚変色を持つ方々がメディカルメイクをされることにより精神的負担を軽く
され、心の安らぎと自信を持って明るい生活を送れるように支援している団体で
す。

メディカルメイクアップアソシエーション http://www.medical-makeup.net/
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アピアランスリハビリセンター(ARC) http://www.arc-apia.co.jp/

→第7回 【インタビュー】 日本アルビニズムネットワーク(JAN)

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