Vol.07 ビートたけし論 -前編-

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ビートたけし論( 『顔面麻痺』 に関して) -前編-

顔に外傷を持つ方の中で、一般的な知名度ナンバーワンの著名人は、なんといっ
ても北野武=ビートたけし(敬称略します)でしょう。
で、のっけから余談だけど、芸人で、見てて涙流すほど面白かったのは、絶頂
期のビートたけしとダウンタウンですね。私の場合。
まあでも、たけしは当初、「テレビでは放映できない」と言われていたほど過
激なマンザイ、容姿も含め、思いっきり人を差別するネタで売り出した人だから、
このメルマガの読者でも、嫌いな人がいるんじゃないかとは思いますが。出てき
たときの叩かれ方もハンパじゃなかったし。
『顔面麻痺』は、文庫化されたときに読んだ。闘病記?だから、面白おかしい
本では当然なくって、当時はインパクト薄かったんだけど、読み直しました。
読み返してみたら、たけしはやっぱり、物事のとらえ方が柔軟で、世間のウソ・
欺瞞を暴きだすことに非常に優れ、さらに知識も豊富だから、「なるほど」と思
えた部分は多かった。

もう時間も経過してるし、忘れてる人も多いだろうから、簡単に事故の経過を
書くと、「1994年8月2日深夜1時37分、ビートたけしは原付バイクを飲酒運転し、
カーブを曲がり切れずガードレールと接触転倒し、右側頭部頭蓋骨陥没骨折、脳
挫傷、右頬骨複雑骨折で長期入院した」というもの。
飲酒運転の自損事故だから、たけし本人に非がある(本人にしか非がない)わ
けだが、かなりの大事故であるのは間違いない。警察から最初に報告を受け、駆
けつけた弟子は、警察官から「脳味噌、陥没だ。よくても植物人間だぞ」と言わ
れたという。
実際は、奇跡的に脳には損傷がなく、半身不随にもならず、芸能界に復帰した
のはご存知の通りだが、この『顔面麻痺』は、約2ヶ月の入院中にたけしが感じた
こと、考えたことをまとめた本である。(ま、他の本と同様に、たけし本人は書
いていないだろうけど。執筆なんて、できる状態じゃなかったろうし。)

たけしの退院時の記者会見を見た人は多いだろうけど、顔はゆがみ、右目と口
の右側はほとんど動いていない。その状態が、たけし自身が「ほとんど完璧」と
いうほど鮮やかだった修復手術の後なのだから、手術する前は相当に変形してい
たはずだ。
たけしは、修復手術が終わった後に、医師から顔面麻痺を回復させるための、
神経をつなぐ手術も受けるよう勧められるのだが、これを断り、顔面麻痺とつき
あっていく道を選ぶ。そのときの記述。
「それにしても、瀕死の事故を起こして脳に異常がなかったのに、顔の表面に麻
痺という症状が刻印のように残ったことは、どうもいろいろ考えさせられるね。
(中略)人間の人間らしさの本質が脳の力にあって、顔ってのはほんの表面のこ
となのに、その表面のことが実に大きな問題になっちゃっている。(中略)顔の
表面にオレってものが閉じ込められているって感じがするんだけど、それをどう
やって食い破るか。まあ、時間があるからゆっくり考えるよ」
<顔の表面にオレってものが閉じ込められている>というのは、当事者となっ
た人ならでは記述ではないでしょうか。

(次回に続く)

→Vol.08 ビートたけし論 -後編-

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