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Vol.14 「正義」という言葉のうさん臭さ -後編-

2010年1月4日

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「正義」という言葉のうさん臭さ -後編- ( 『ミスティック・リバー』 と 『許されざる者』 )

前回に続いて、今回は『許されざる者』。こっちは西部劇でっす。イーストウ
ッド演じるマニーは、かつては強盗などを繰りかえした名の知れたならず者だっ
たが、結婚を機に改心し、足を洗うが、妻に先立たれしまい、幼い子供と農場を
営み、細々と暮らしている。
そこに若いガンマン、キッドが現れ、賞金稼ぎに誘う。ある町で、娼婦が客の
カウボーイに「顔を切り刻まれ、目玉をくりぬかれ、乳房を切りとられた」事件
が起き、怒った娼婦仲間たちが賞金をかけているというのだ(実際には、娼婦は
顔に傷は負ったが、目玉・乳房のくだりはデマで尾ひれがついている)。マニー
は一度は断るが、子供たちのため、かつての相棒ネッド(モーガン・フリーマン)
と共に町に出て、キッドを追う。しかし、町では保安官(ジーン・ハックマン)
が、噂を聞きつけてやってきた賞金稼ぎ達をブチのめし、追い返していた。
見ていて思い出したのは(実際は殆ど見てないけど)「東映ヤクザ映画」。最
初はボロボロで、馬にもうまく乗れず、拳銃を撃っても標的の空きカンにすら当
たらないマニー。はっきりいって冴えない。キッドと合流したのはいいが、悪性
の風邪をひき、やっと町に入れば、拳銃を不法所持しているとして、保安官に殴
られ、町から叩き出される。
この前半やられっぱなしで、耐えて耐えて、最後に隠していた本領を発揮して、
全部やっつけるって展開が「東映ヤクザ映画」っぽいな~って思ったわけなんだ
けど。ヤクザものっていっても任侠の方ね、鶴田浩二とか健さんとかの方。仁義
シリーズじゃなくて。

で、見終わって誰もが感じるだろう疑問、タイトルの<許されざる者>とは誰
を指しているのか?

考えられるのは、(1)主人公マニー:今は改心しているといっても、かつて
の悪行の数々は許されるものではないだろうし、幼い子供のため、傷を負った娼
婦のためとはいえ、またもや人を殺す。(2)保安官:最初はいい人かと思って
いると、途中からサディスティックな部分を全開。いや~、こういう人が権力も
つと怖い。(3)カウボーイ:どうしょうもないバカ、無論罪深い。(4)娼婦
達:被害者ではあるが、法の裁きではなく、殺人を依頼しているわけで・・・。
(5)他の賞金稼ぎ:キッドやネッド。マニーと同じく賞金のために人を殺す。
って感じであげていくと、・・・ほぼ全員ですな。

何作か続けて見れば誰でも感じると思うんだけど、イーストウッドって「複眼」
の人ですね。非常に理性的で、物事を客観視して見てる。ハリウッドの他の監督っ
て、自分の意見をゴリ押しする人が多いと思うんですよ。典型的なのがオリバー・
ストーンだけど。じゃなきゃ、職人に徹してて社会的なテーマは扱わない監督か。
ティム・バートンみたいな。
一方、イーストウッド作品の中じゃ、絶対的な悪も、絶対的な善もない。常に
グレーなんです。『ミスティック・リバー』のティム・ロビンスは悲惨で可哀想
だけど、やっぱり犯罪者だし、ショーン・ペンはどうしようもないチンピラだけ
ど、ああなってしまった原因は娘への盲目的な愛情が原因なワケだし。『許され
ざる者』に至っては、全員が<許されざる者>でありながら、<こいつだけは許
せねえ>的な悪人は一人も出てこない(と、私は思った)。西部劇でありながら、
ぜんぜん、勧善懲悪じゃない。表面的には普通の西部劇なんだけどね。
まだ見てないんだけど、イーストウッドが、『硫黄島からの手紙』と『父親た
ちの星条旗』の2本を同時に撮ったのって、すごくよく分かる。絶対的な正義な
んてありゃしないんだから。

「人は何を売りにしてもいいけれど、正義という言葉を売りにしてはならない」
って言ったのは確か、山本夏彦だった。
-おまけ-

それにしても、『許されざる者』で対決するイーストウッドとハックマンって
さ、かつて『ダーティー・ハリー』と『フレンチコネクション』という二本の傑
作刑事アクション映画で、二人ともはみだし刑事を主演して、スターになったん
だ(しかも両作品とも1971年公開)。『ダーティー・ハリー』も『フレンチコネ
クション』も、犯人逮捕のためにはなんでもする。非合法なやり方も平気ってい
う刑事で、当然だけど、周囲の理解は得られないで「善と悪」「本能と理性」の
狭間で苦心する刑事役でさ。そんな二人が「善と悪」とは何かを問うような西部
劇で対決するなんて、面白い。

しっかし、自分で書いといてなんだけど、古いネタばっかだな。いったい何歳
なのよ? 俺。

(了)

→Vol.15 「芥川スズキ」 -前編-

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